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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

  • 執筆者の写真王丸典子

私って「ババァ」だったの!

更新日:2021年3月7日


ある時カウンセリング事務所でクライアントの到着を待っていると、受付の方角から男性の怒鳴り声が聞こえてきました。何を言っているかはっきりとは聞こえませんが、かなり暴言を吐き続けていることは確かです。


私の事務所があるのは、弁護士事務所や税理士事務所などが入るシェアオフィスでこれまで3年程利用していますが、こんなことは初めてです。


しかも数分後にはクライアントが7歳のお嬢さんを連れてくることになっていたので、かなり焦りました。


そっと受付を覗いてみると、身なりの良いスラっとした男性が、若い受付嬢に向かって罵声を浴びせ続けているではありませんか。


「申し訳ありません。そのように決られておりま.....」とか弱い声で答える受付嬢に、男は「てめぇら、客が来てるのにお茶の一つも出さねぇのかよ!」と大声で叫んでいます。どうやら事務所を借りたくて内覧を希望したところ「内覧はご予約の上、お越しいただいております」と言われ、予約していなかった男が激怒したようです。


そんな状況下、クライアントとお嬢さんが怖い思いをするのではないかと思うと、私はじっとしておれず、足音を忍ばせて受付に歩いていきました。


これが「飛んで火にいる夏の虫」になろうとは思いもよりませんでした。なんと、私を目にした男の矛先は、突然こちらに向いたのです。男は私に向かって「弁護士だか税理士だか知らねぇけどよ。なんだよお高く止まりやがって!ババアじゃねぇかよ!」


きっと男は謝り続ける受付嬢に物足りなくなったのでしょう。この「ババア」だったら応戦してくるに決まっていると、無意識に思ったに違いありません。


私はというと、頭の中では大混乱が起きていました。「私は弁護士でも税理士でもないけど....」や「私ってババアだったの!」こんな思いが頭を駆け巡ります。


何しろ85歳のお婆さんに対してでも「ハロー、ヤングレディ」というような国アメリカに長年住んでいたせいで、自分が正真正銘のババア年齢に突入した後も、そのように呼ばれたことは皆無だったのです。



また良い身なりの学歴も高そうな男性が、公衆の面前でキレるというのもアメリカ社会では、あまり見たことがありません。一つ思い当たるのは、感情が抑えられないということが、立身出世に強く影響するという意識が浸透しているからではないかと思います。


また、どこにでもある監視カメラや、常駐している警備員がすぐ飛んでくるというのも、このような事態が起きるのを防いでいたのかもしれません。


こんな時はどうするんだっけ。そうだ激怒の波長にのらず、相手の目を見ながら神妙に心を込めて「申し訳ありません」と言い続けるんだった。この時怖がっているような態度をとると相手の圧に負けてしまうので、丹田に力を入れてゆっくり呼吸をしながら行うんだった。


これはかつて仕えた航空業界きっての「キレ男」だった上司への対処法でした。そうだ、これはアメリカのメンタルヘルスクリニックでも、キレる患者さんに対して100%功を奏したっけ。国際的に通用する方法だ!はっきりしない頭でこんなことを考えながら、「ババア、ババア」と暴言を吐き続ける男と謝り続ける私は、徐々ににエレベーターの方向に歩いていきました。


エレベーターのドアが開き「乗らねえのかよ、ババア」、「申し訳ありません。どうぞお先に」という私を睨みつけながら、男は最後に「ばーか、ババア」と言って一人エレベーターに乗り込みました。ありがたいことにその直後、クライアントとお嬢さんは男と全く顔を合わせることなく、無事に到着されたのでした。


後に家族に「ババア」と言われたと訴えると「日本じゃキレてる奴にとって30歳以上の女性はみんなババアなんだよ」と諭され「へぇ、そうだったの」と、私はまた逆カルチャーショックを強く認識したのでした。


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