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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

  • 執筆者の写真王丸典子

適応障害・心は潰れてしまった

更新日:2023年6月29日

適応障害とは

適応障害とは、置かれた環境に適応できず、心の健康が著しくそこなわれることにより、以前は普通にできていたことができなくなり、日常生活に大きな影響を与える心の病気です。


適応障害は、ストレスにより引き起こされる状態です。強くストレスを感じる出来事や、予想外の出来事を経験した結果、人間関係や職場、または学校などにおいて、物事がうまくいかなくなります。


この病気は、過度のストレスが掛かってから3カ月以内に発症し、ストレス原因に不釣り合いなほどの苦痛を感じたり、あるいは社会生活機能が著しく損なわれるというものです。


またストレス原因が解消した場合や、環境改善がみられると、その後は6か月以上症状が続くことはないと考えられています。(精神障害の診断・統計マニュアルDSM-5より)


仕事上の問題、新しい学校への進学、病気、家族の死、または生活上のあらゆる変化は、極度のストレスを引き起こす可能性があります。


そのようなことがあっても、多くの人は数か月以内に変化に順応することができます。しかし、適応障害を発症した人は、不安や抑うつの原因となる感情的または行動的な反応が続きます。


まさみさんの現状

38歳のまさみさんは、半年前に結婚したばかりです。夫はアジアの小国、Q国の出身で、結婚後に夫の国に移り住み新生活が始まりました。夫はQ国の名家の出身で、夫を初め一族は政府の要職に就いていたり、医者や学者、弁護士ばかりです。まるでお城のような大きな家に、夫の親族や大勢の使用人に囲まれての生活は、まさみさんの描く結婚生活とはかけ離れたものでした。


結婚前のまさみさんは長年専門商社で、日本の最先端技術によって作られた工業製品を、東南アジアの国々に輸出する仕事に携わっていました。仕事に生きがいを感じ、30代の後半になっても「結婚しなくても、私は幸せ」と思い、忙しいながらも毎日イキイキと暮らしていました。


そんなまさみさんはQ国に出張した際、

レセプションで夫と初めて出会いました。2歳年上の夫はイギリスの大学に留学した経験のある紳士で、20代の頃に結婚した最初の妻を数年前に病気で亡くしていて、子供はありません。


夫の情熱的なプロポーズを受け入れ、生きがいだった仕事を辞めてその国に移り住む時、しのぶさんは大きな期待と不安が入り混じった気持ちでした。



そして新生活が始まると、夫の一族に伝わる儀礼や習慣、宗教の教え、そして暗黙のルールなど、驚くことの連続でした。また一族や使用人たちの中にまで、まさみさんが本家の長男の嫁になったことを快く思わない人が大勢いて、その生活はとても幸せとは言い難いものだったのです。


唯一心優しい夫だけが頼りでしたが、毎日自分の気持ちが塞ぎ、また将来を悲観する気持ちが強くなると、次第に朝ベッドから起き上がることさえ難しくなりました。


夫と相談の結果しばらく日本に里帰りして、心の健康を取り戻すことにしたまさみさんは、私のカウンセリングオフィスにやってきました。


まさみさんと心理カウンセリング

カウンセリングでは、これまでの経緯と現状を理解したのちに、誰にも打ち明けることのできなかった、つらい気持ちをまさみさんに話してもらうことに専念しました。


まさみ 日本で仕事をしていた時は、自分が多少社会に貢献できる人間だと自負していました。それが結婚してQ国で暮らすようになったら、言葉は通じないし、文化や習慣も全く違うので、なんだか自分が赤ん坊に戻ったような気がしました。また親族が声高に私の年齢を懸念して「あんな年増じゃ本家の跡継ぎは生めるわけない」というのです。


誰も私をまともな大人として扱ってくれない。本家の長男の妻としての役割が色々とあるのですが、言葉が分からないからでしょうか、ちゃんと教えてくれる人もいませんでした。私はどんどん孤立していき、深い孤独感から心が急激につぶれていくのが分かりました。


カウンセラー 随分つらい思いをされていたのですね。心がつぶれていくとおっしゃるのを聞いて、私も胸が苦しくなる思いです。あなたの症状は新しい環境で想像を超えるストレスを受けたことが原因です。このような場合、少しずつ環境に慣れていくことが必要です。その際助けになるのが、あなたの立場を理解してサポートしてくれる人達です。そのような人は何人くらい周りにいますか。


まさみ 夫以外は全くいません。しかも夫は外務担当の政府高官で、月の半分は出張で海外に行っています。その他の人達は、敵ばかりのような気がして、下働きのメイドでさえ、私をバカにしているのがよく分かります。唯一の肉親は静岡に住む母ですが、私がQ国に居る時は毎日のように母とライン電話で話します。でも心配をかけたくないので、本当の気持ちは全く話していません。


カウンセラー 旦那様以外に全く見方がいないというのは、さぞ心細いことでしょう。一人ぼっちでつらい時は、どのような状態でしたか。


まさみ 結婚して2か月半か3カ月目くらいから、毎日辛くて悲しくて、泣いてばかりいるようになりました。将来を考えると不安で不安で、食欲も無くなり体重もあっと言う間に減って、夜寝られないのです。

やっと眠りに落ちる頃はもう朝で、今度は午前中にベッドから起き上がれません。こんな自分が情けなくて、頭の中では自分を責める気持ちばかりが浮かんできます。私は元来どちらかというと呑気な性格で、友人たちからは明るい人と言われていました。その私が一体どうしてしまったのでしょう。


カウンセラー これは想像を超えるストレスが、まさみさんに降りかかったことが原因です。まして外国で四面楚歌の状態ですね。この状況はまさみさんでなくても、多くの人が適応するのがとても大変だと思いますよ。


このような辛い状況下でしたが、まさみさんは夫に対する愛情から何とか自分を立て直そうともがいていたようです。ふと、逃げ出したいいう思いや、自殺願望が頭をよぎることもあったようですが、夫や母がどんなに悲しむかと思うととても実行する気にはなれなかったそうです。


適応障害の症状を軽減するには

アメリカの主な研究機関によると、適応障害の治療に最も有効なのは、心理カウンセリングであると推奨しています。


適応障害の根本的解決につながる薬はありませんが、不安感を抑制するベンゾジアゼピン系の薬は最も良く使われるものです。また睡眠導入剤やSSRIやSNRIなどの抗うつ剤も処方される場合があります。


しかし薬により状況への適応能力が低下する場合もあるので、処方は気をつけて行うようにとジョン・ホプキンス大学の適応障害説明ページには記されています。

このような説明をまさみさんにすると、出来るだけ薬は使いたくないので、週に一度の心理カウンセリングをメインに治療を受けたいとのことでした。


まさみ 妊娠をあきらめていないので、薬は使いたくないのです。ただ不安があまりにも大きくなって、パニックのようになるのを避けるために、抗不安剤をお医者さんに処方していただきました。これは必要に応じて服用します。


カウンセラー 適応障害を治すうえで大切なことは、周りにサポートしてくれる人がいること、そして自分自身の心のケアになるアクティビティーが大事だと考えられています。


まさみさんはQ国では見方が旦那様だけという状況ですね。心理カウンセリングを通して私もできるだけサポートしていきます。


また自身でできる心のケアとしては、日記を書いたり散歩を日課にしたり、アロマを炊いたり、ペットを飼ったりすることも勧められています。どのようなことがまさみさんの心のケアになるか、少しずつ一緒に探っていきましょう。


おわりに

適応障害の症状は一般的ストレス因となる事柄が解消すると、6か月以内に消えると言われています。しかしまさみさんの場合は、異国の上流階級家族との生活は、今後も一生続くことになり、置かれている状況はとても複雑です。


心理カウンセリングはQ国にまさみさんが帰国した後も、遠隔で週に一回続けています。心理カウンセリングを通して、針の筵のような中で自分の心が潰されないようなスキルを身につけました。それは主につらい状況下で自分を励ます考え方を身に着けるものでした。またまさみさんが私を味方であると思いなんでも話すことで、心の整理をつける作業を継続したことも回復の大きな要因となりました。


初めての面談から1年後にはまさみさんは随分回復し、日常生活の大部分を普通にこなせるようになりました。

またその頃、まさみさんは妊娠して、10か月後には男と女の双子の赤ちゃんが生まれました。この状況は旦那さんの親族や使用人の態度を大きく変えるきっかけになりました。


初回面談から2年後、まさみさんの適応障害の症状は、すっかりなくなりました。





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