評価を気にして冷や汗が止まらない
ある有名商社に入社したカイさんは、周りの人達のレベルの高さに恐れおののいています。入社時には、希望の会社に入れた喜びに満ちていたのに、半年経ったころから無力だという思いに心が支配されて、仕事に身が入りません。
なんとか実力を証明したい気持ちと、できないに違いないという不安感が心の中でずっとせめぎあいを続けています。カイさんのように不安が大きくなると、当然のことながら集中力が低下し仕事の能率も上がりません。
焦れば焦るほど空回りして、特に上司や先輩との会話では評価を気にするあまり、最近では多発汗に悩まされるようになりました。以前は特に汗かきというわけでもなかったし熱い時期でもないのに、毎回ワイシャツがびっしょり濡れるほどです。
初めは上司や先輩との会話時の発汗でしたが、次第にストレスを感じる様々な状況で多量の汗をかくようになりました。何か悪い病気なのではないかと思い、カイさんはいくつかのクリニックや病院を訪れました。しかしすべての医者から次のような診断を受けました。
「身体的にはどこも悪くありません。多分ストレスで自律神経のバランスが崩れたのでしょう。気持ちが楽になる薬を出しますから様子をみてください」
カイさんは薬を飲むことに抵抗があり、ストレスが原因なら心理カウンセリングを受けようと決意しました。カウンセリングでは、通常のトークセラピーに加えて、自律神経を整えパフォーマンスを向上するトレーニングを行いました。
呼吸法バイオフィードバックを行って自律神経のバランスを整える
カイさんのような場合、一番必要なのは自律神経を安定させて発汗機能を整え、同時に情緒を安定させ集中力や理解力を高めることです。
そこで呼吸法のバイオフィードバックというコンピュータープログラムを使い、次の要領で自律神経を安定させる方法を画面を見ながら学びました。
① センサーを付け画面の前に座る
② 画面上の動くボールに合わせて呼吸する
③ 画面上に刻々と変化する心拍と呼吸、自律神経の状態が映し出される
④ ボールに合わせて呼吸を続けていくうちに心拍と呼吸が安定し、自律神経のバランスが向上する
左の画像はカイさんがトレーニングを始めたばかりの頃の様子が映しだされたものです。心拍の乱れがあり、自律神経も不安定な状態です。
トレーニングが進み、上手く呼吸ができるようになると、左下の画像にあるように、心拍と呼吸がシンクロするようになります。そして自律神経の安定を示す山形があらわれます。この状態は「ゾーンに入る」と表現され、ベストパフォーマンスが期待できます。
自宅でも毎日呼吸法の練習
呼吸法のトレーニングは副作用もなく、安心して行うことができ、自律神経の安定に非常に効果があります。カイさんには面談時のバイオフィードバックに加え、家でも毎日十分ほど練習をしてもらいました。
自宅で行う呼吸法のトレーニングは次の要領で行うことができます。腰かけてあるいは横になって行っても構いません。慣れてきたら電車の中で立っている時にもできるようになります。
① 体の力を抜く。上手くできないときは、抜くような気持ちで行う
② ゆっくり1から5まで数えながら鼻から吸い、また1から5まで数えながら鼻から吐く
③ 苦しい場合は口呼吸でもよい
④ 酸素をたくさん吸わないように
⑤ 呼吸の速度をゆっくりすることに意識を向ける
⑥ これをできれば十分間(一セット)続ける
⑦ 慣れないうちは二―三分から始めましょう
⑧ 一日一回一セット行うことを習慣づけましょう
カイさんの他発汗は週に一度のカウンセリングを始めてから三カ月ほどで随分改善され、同時に仕事のパフォーマンスも少しずつ向上しました。
「何より良かったのは、自律神経を自分で安定できると知ったら、自信がわいてきたことです」
カイさんはこのようなコメントを残して、六か月後にカウンセリングを終了しました。
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