カウンセリングの極意「その気」を促す
何をするにも「その気」がどのくらいあるかで、結果が大きく違ってきます。
例えば心理カウンセリングに来る人達の中にも良くなりたいという気持ちの強い人と、いろいろな事情でなかなかそう思えない人とでは結果に大きく影響が出ます。
同じように重いウツ症状の人でも「こんな苦しみはもうこりごりだ。何とかしたい」と思っている人と「こんな苦しみが変わるわけない」と思っている人とでは、同じカウンセリングをしても回復に違いが生じるのです。
後者の場合はカウンセリングのかなりの時間を割いて「その気」が少しずつ芽生えるよう手伝います。しかしながらカウンセリングの中でも、これは最も難しい作業だと言えるでしょう。
「その気」をどのように促すかは、人によって異なります。例えば理詰めで考える人には「ソクラテス問答」のような方法を用いたり、自信のない人にはまず自信をつけることに重きをおきます。また「呼吸法」などリラクゼーションの方法を用いて、心の緊張をゆるめるのも効果的です。
もちろんクライアントさんと良い関係を築いて、セラピストが信用を得るということも「その気」にさせる重要なポイントです。
とても頭の良い男性がカウンセリングに訪れました。ひどく落ち込んでいて人生に対して「夢も希望もない」と言います。私の印象ではその人は常識や知識を兼ね備えた素敵な男性なのですが、その人自身は全くそう思っていないようでした。
自分の価値を再認識してもらうため、男性の長所をリストにする作業を行いました。これは良く用いる方法なのですが、リスト作りの過程が終わり表を眺めるだけでもかなりの人のが多少自信を回復します。そして再度自信を失いそうになった時に、その表を眺めて自分の人間としての価値を再認識してもらいます。
自信が回復すると、迷いが減って判断力や集中力そして理解力が高まります。この男性もそれによってやっと少し「その気」なりました。つまり、自分の心が軽くなる日も来るかもしれないと思えるようになったのです。
しかし前述の男性のようにうまく行くケースばかりではありません。ある30代の独身女性は、仕事を辞めて以来ここ数年引きこもり状態でした。大学院まで出て専門知識のある人でしたが、どこに行っても人間関係から大きなストレスを感じるため、仕事が長続きしません。
この人には「社会復帰して楽しい人生を歩みたい」という気持ちはあるのですが、その目標に近づくために、今すべきことに対して「その気」になれません。表面上カウンセリングはとても意欲的で、どうすれば最初の一歩を踏み出せるか頭では理解しています。しかし過去の人間関係がトラウマになっていて、その恐怖心から実践出来ないのです。
トラウマを乗り越えるためには、少しずつ段階を踏んで難しいを思われることを行うことが必要です。この女性は一人でエレベーターに乗ったり買い物に出かけることは出来るようになりましたが、社会復帰に向けて具体的な一歩を踏み出すという「その気」が芽生えるにはとても長い年月がかかりました。
人の心はとても繊細です。セラピストが押しすぎてもうまく行かないし、押さなくても先に進めません。いつどのような方法でクライアントさんをあと押しするかを見極めるのはとても奥の深い作業で、極意を極める修行はずっと続きそうです。
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