愛犬タンク 戦地に行った兵士が残したもの
僕がこの町に越してきたのは6か月前だった。小さな町だが人々が親切で人懐こく居心地の良い土地だ。日々生活も落ち着いてきたが、それだけでは何か物足りなさを感じていた。するとふと、犬でも飼おうかという気になった。そして何度か里親探しのニュースに出てた #黒ラブ のことが気になった。
レジーを引き取る時シェルターからいろいろな物を渡された。真新しい犬用ベッド、おもちゃ、テニスボール、餌用の皿そして前の飼い主からの手紙も含まれていた。
しかし僕はどうした訳かそれらの品がレジーには必要ないと思い、まだ整理の済んでない自分の引っ越し荷物の箱に放り込んでしまった。
僕はレジーに対して飼い主らしく振舞おうとした。「おすわり、動くな、来い、後ろ足で立て」などの命令をしてもレジーはこっちを見るものの、僕の言うことを聞こうとはしなかった。その代わり僕の靴や引っ越し荷物の入った箱を噛むのに忙しかった。
僕の我慢もギリギリで、アニマルシェルターに電話しようとしたところ、置いたはずの場所から携帯が無くなっていた。「あのクソったれ犬が隠したに違いない」そう思ってありとあらゆる場所を探した。
すると携帯はシェルターから貰ってきたレジーの品物と一緒にあった。そこにはすっかり忘れて、まだ封をしたままの前の飼い主からの手紙も含まれていた。
レジーをシェルターに返す前に、前の飼い主から何かアドバイスでもあるかと思い、読んでみることにした。
*************************************************************
前の飼い主の手紙抜粋
黒ラブの一番のお気に入りはテニスボールで遊ぶこと、そしてそれを口の中に2個入れるのが大好き。3個入れようとするがまだ成功していない。お座りなどの普通の命令は理解出来る。また回れとか後ろに下がれなどのジェスチャーも解る。いつも躾けをする時は、ご褒美を与えるようにしていた。
食事は朝7時と夜6時の2回。予防注射の予定が迫ってるので、9番通りにあるクリニックに連絡してくれ。そして彼が慣れるまでの時間を十分与えてやってくれ。自分は独り者だし、彼と僕はいつも一緒だった。彼は車に乗って僕とどこにでも行った。
出来れば彼を毎日のように車に乗せてやってくれ。彼は後ろの席におとなしく乗っていられる。この犬は人と一緒にいるのが大好きなんだ。特に僕と一緒にいるのがね。だから彼にとって、環境の変化はとっても難しいことなんだ。
名前は本当はレジーじゃない!
どうしてこんなことしたか分からないけど、彼をシェルターに連れて行った時、本当の名前を告げることで、この犬を二度と見ることが出来なくなるような気がして。違う名前を言うことで、まだ最後の別れじゃないような気持になったんだと思う。
本当の名前はタンク(戦車)だ!
なぜなら僕が戦車を操縦する係だから。
この犬からもらった無償の愛を抱えて僕はイラクに行く。タンクの愛を教訓にして、悪いやつらから罪もない人々を無欲無私で守りたい。タンクは僕にとって「愛と貢献」の象徴だ。
タンクとの幸運を祈ってるよ。彼に良い家庭をあたえてやってくれ。そして毎晩僕からのキスも代わりにお願いするよ。
ありがとう。
ポール・マローリー
*************************************************************
ポール・マローリーのことはこの小さな町で知らない者はいなかった。この町出身のポールは、数か月前にイラクで自分の命を犠牲にして三人の同僚を救った、アメリカ陸軍の軍人だ。彼の功績を称えて夏の間ずっと、町は反旗を掲げていた。そしてポールはメダルを授与されたはずだ。
僕はしばらく椅子に掛けて犬を見つめていた。
「おい、タンク」
すると寝そべっていた犬は頭を立て、目を輝かせた。彼はすぐに立ち上がり、爪を鳴らして床を踏み僕の前までやって来て座った。その姿は何か月も聞かなかった本当の自分の名前を確認しているように見えた。
僕は何度も「タンク」と彼の耳元で囁いた。そのたびに彼の耳が下がり目が和らいで、体全体から力が抜けて行った。まるで満足感で体全体が満たされていくようだった。僕はタンクの耳を撫で肩をさすった。そして彼の首の後ろに顔をうずめ抱きしめた。
「なぁ、これからは僕とお前だけなんだよ。お前の親友はお前を僕に残していったんだ」するとタンクは立ち上がり、伸びあがって僕の頬をなめた。
「ボール遊びでもするか?ボール遊びは好きかい?」
するとタンクは耳を立てて僕が握っていたボールを取り去り、隣の部屋に行ったかと思うと戻ってきた。タンクの口の中には3個のテニスボールが入っていた。それを見た時僕は初めてタンクと絆が持てるかもしれない気がした。
この記事は下記のサイトを元にしました
Comentarios