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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

  • 執筆者の写真王丸典子

東京物語



数十年前にLDプレーヤーが発売された時、その美しい映像に息を吞むほど感激しました。




プレーヤーを使って、日本映画やヒッチコック作品、ヨーロッパ映画のLDをたくさん観ました。


もともと日本文化や歴史が好きで、大学進学を決める際には日本史専攻にしようかと思った私が、思いがけず海外に住むことになったのは、人生の不思議としか言いようがありません。


そんな私にとって、LD映画の中でも小津安二郎監督の映画は、ただ映画を観るだけではなく、遠い日本に対する郷愁を和らげてくれるものでした。












小津作品の中でも繰り返し繰り返し観たのは「東京物語」です。この映画が発表されたのは戦後数年の昭和28年、ちょうど私が生まれた年でした。当時の日本はまだ戦後の爪痕が残り、人々の生活は今と比べ物にならない程質素なものでした。




今の生活と比べると不便なことは山ほどあったでしょうが、日本人の庶民の生活の中に、物質では補えない何かがあったように思うのは、私だけの幻想でしょうか。そんな私の幻想を裏付けてくれる映画が「東京物語」でした。






この映画に描かれているのは、平凡な日本の家族です。戦後という背景の中で、戦死した息子を持つ老夫婦とその嫁を軸に、老夫婦が田舎から東京に住む独立した子供たちを訪ねる日々を描いています。そしてその旅から帰って間もなく老妻は亡くなります。


この映画が醸し出すゆったりと流れる時間や、戦後の厳しい生活に抗うことなく、現実を受け入れていく人々の姿は、私に名状しがたい静かな満足感と希望を与えてくれるように感じるのです。


昨年次男の嫁を演じた原節子さんが亡くなり、その後の特集番組で久しぶりにこの映画を観る機会がありました。60年以上前に作られた「東京物語」ですが、いまだに海外での評価も高く、永遠の名作として後世に伝わるのではないでしょうか。


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