音楽の魔法・頑固なシニアの心に灯をともす
懐かしい音楽が流れてきて、急に昔の情景や思い出が浮かぶことありますね。
懐かしさや甘酸っぱさ、ワクワクや寂しさなど、強い感情が一気に押し寄せてくることもあるでしょう。
自分が活力に満ち一生懸命生きていた日々の記憶が、音楽によって呼び起こされることもあるかもしれません。
シニアホームから脱走
75歳の男性の妻が亡くなって1年半が経ちました。
これまでは長年妻と暮らした家で一人暮らしをしていましたが、2か月前に転倒して大腿骨を骨折してしまいました。
この男性には二人の娘さんがいましたが、二人とも地方や海外に嫁いでおり、退院後ずっと娘さんがお世話をするというわけにはいきません。
そこで男性も一応納得して、住み慣れた町のシニアホームに入ることになりました。
しかし入ってみると男性入居者があまりいないことや、とても頑固な性格なので、ホーム生活になじめません。
そしてそこから男性は脱走を繰り返すようになりました。しかしそのたびに地方在住の娘さんが飛んできて連れ戻し、説得すること10回以上。周りはみな疲れ果ててしまいました。
昔懐かしい音楽を流してみると
そんな中、音楽療法について聞いた娘さんが、試しにホームの男性の居室で音楽を流してみました。
すると旧制高校の校歌集や、軍歌、戦後のヒット曲などを聞くうちに、男性の意固地な態度に変化が出てきました。
旧制高校出身の男性は、若き日の思い出や、あの頃のエネルギーを一瞬に思い出したことでしょう。
戦後の生活は大変でしたが、みんながリンゴの唄のながれるなかで、一生懸命暮らしを立て直そうとしていました。
妻を亡くし体の衰えを実感して元気のなかった男性の心に、音楽は希望の光を灯しました。
音楽の魔法でホームの部屋が自分の居場所に
ホームの部屋に毎日音楽が流れるようになりました。
するとこれまで味気なかった空間が、懐かしさや嬉しさを経験する場所になっていったのです。
男性の表情はイキイキして顔色も良くなりました。誰に対しても攻撃的だった口調さえやがて穏やかになりました。
このころには男性の脱走癖はすっかりなくなり、ホームでの活動にも少しずつ参加できるようになりました。
娘さんは藁にもすがる思いで勧めた音楽療法ですが、まさかこんなに効果があるとは思わなかったそうです。
脱走騒ぎから10年、先日男性は85歳の生涯を終えましたが、音楽は最後まで男性の生活を支える重要な存在となりました。
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