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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

  • 執筆者の写真王丸典子

被害者からサバイバーへ


服飾業界のバイヤーとして働くしのぶさんは、魅力的な女性です。

子供の頃に両親が相次いで亡くなり、十三歳の時に親戚に引き取られました。

ところがそこには五歳年上の従兄がいて、しのぶさんに性的虐待を繰り返すようになりました。

このことはあまりにも恐ろしくて、また親戚の家から追い出されそうで、誰にも話したことはありません。

高校卒業後一人暮らしをはじめ、夜学に通って服飾の勉強をしながら今のキャリアを確立しました。

これまで男性との付き合いはほとんどなく、辛かった従兄からの虐待が常にしのぶさんの心を苦しめます。

しのぶ 男性との付き合いはたくさんです。百害あって一利なしというのが正直な気持ちです。男性全員を敵のように思います。男性相手だといつも身構えているというか。

私   これまで随分つらい思いをされたのですね。しのぶさんにとって男性は常に害を与える存在なのですね。

しのぶ その通りです。バカな考えに聞こえるでしょうが、世の中から男性がいなくなってくれても全くかまいません。


しのぶさんの意識を見直す

   なるほど、しのぶさんの経験からするともっともですね。世の中約半分が男性ですから、その人たちがすべて敵というのは、安心して暮らせませんね。しのぶさんのお父さんはどういう方でした?

しのぶ 父は一人っ子の私をとても大事に可愛がってくれました。

   養父の叔父さんはどうですか。

しのぶ 私をかわいそうに思って、本当のお父さんのように接してくれました。

   では、男性全員が悪人というわけでもないでしょうか?

しのぶ ……それはそうですね。

   これまでのしのぶさんは、男性は全員敵で自分は被害を受ける存在と思っていますね。つまり常に被害者であるという認識です。一方あなたは厳しい環境を乗り越えて、今のキャリアを確立するほど素晴らしい人です。私から見るとあなたは力強いサバイバーです。

しのぶ 確かにそうかもしれません。でも気持ちの上でそう思えるかどうか。

   お父さんや叔父さんを考えると、男性はすべて敵というのはどう思いますか。


しのぶさんの意識のシフトを促す

しのぶ だからといって、男性と付き合う気にはなりません。

   お付き合いを勧めているわけではありません。自分を救うためにしのぶさんの意識が「被害者からサバイバー」にシフトしていけば、少しずつ気持ちが楽になってくるのではないかと思っています。

しのぶ どのようにすると意識に変化が出るのでしょう。

   これからもしばらくカウンセリング面談を続けていくうちに、変化が出てくると思います。今日行ったように、カウンセリングではしのぶさんの認識が偏っていないか確認します。なぜこれが重要かというと、偏った認識を持ち続け精神的に追い詰められる人が多いからです。

また新たなものの見方を一緒に模索します。例えば「自分は被害者ではない」、「男性には女性と同じように悪い人もいるが良い人もいる」、「自分はサバイバーである」といった考え方です。

新しい認識を頭で理解しても、気持ちの上で受け入れるには少し時が必要です。その間気持ちは楽になったり、また苦しくなったりする場合があります。心理カウンセリングではしのぶさんの感情の波を重視しながら、少しずつ気持ちが晴れることを一緒に目指していきます。これはしのぶさんが自分自身を見つめる作業です。

この会話から6カ月たった頃、しのぶさんの抑うつ感は大分解消されました。それは自分を見つめる作業を通して心の偏りに気づき、より成熟した考え方に少しずつシフトできた結果でした。

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