犬が怖い本当の理由②


やがて貝のように閉じていたポール心の扉がゆっくりと開き始める。すると犬と遊んでいた日々はとても楽しかったことや、夜は毎晩一緒に寝ていたことなどが、ポールの頭の中に映像のように浮かんできた。そしてついに犬を敬遠するようになった原因かと思われることを口にした。


ポールは遠くを見つめるような目をして、


「よく考えると、子供時代は必ず犬がいる生活でした。でもどんなに可愛がっても、最後はみんな死んでしまった。犬が死んだ時は本当に悲しかったんです」


「なるほど、ポール。とても可愛がっていた犬たちは最後には必ず死んでしまった。そしてあなたはそのたびにとても悲しい思いをしたのですね。人は時に悲しみから立ち直るために記憶を封印することがあります。また何かを敬遠するあまり、それに対して怒りや恐怖心が育つこともあるのです。あなたの場合も当てはまるでしょうか」


ポールの心の動きに合わせながら、あかりはゆっくりとしたペースで問いかける。


「はい、なんだかとても納得します」


またポールが特に大きな犬が怖いというのも、これが原因かなと思える経験をしていた。ある時家の近くの草原で気持ちよく昼寝していると、何かが自分の顔を触ったような気がして目を開けた。

すると目の前数センチの距離に巨大な牛の顔があり、ポールの顔を太く大きな舌で今まさに舐めようとしているではないか。ポールは心臓が止まるほど驚き、飛び起きて命からがら家に逃げ帰った。


犬を敬遠する気持ちが大きくなっていたところに、巨大牛の襲撃である。リトル・アルバートが次第に様々な動物や毛皮のストールに対しても恐怖するようになったように、このような経験からポールは動物全般が苦手な大人になっていったようだ。


「ポール、あなたが犬を怖がるようになった原因と過程が少し理解できましたね。次はその解決法を模索して、実践していくことが必要です。特定の物に対する恐怖心を克服する一番効果的な方法は、リラックスしながら段階的にその対象物に慣れていくというものです。


例えば、ゆっくり呼吸しながら、これがリラックスの部分ですが、まずは犬の写真を手に取って何度も見る。普通に写真が見られるようになったら、ペットショップやドッグランに通って遠目に犬を眺めることを繰り返す。これも平常心で行えるようになったら、もう少し犬に近づく。


そして次は犬の体を触る。餌をやる。一緒に歩く。このように段階的に犬に慣れる訓練を行います。どのプロセスでも、必ずゆっくり呼吸をしながら行ってください」


以上の説明をして、あかりはカウンセリングと同時進行で、犬に慣れる訓練を自身で行うようポールに促した。


もともと犬好きだったことが幸いして、ポールは2か月ほどで子犬となら歩いたり、体に障ったりできるようになった。しかし息子と妻が欲しがっているのはゴールデンリバーだ。これは成犬になるとかなりの大きさに成長する。


はじめは懸念していたポールだったが、

「ゴールデンを子犬から飼ってみようという気になりました。段階的に行うことが大事なら、子犬から育てるというのは恐怖症を克服するのにベストではないかと思います。


犬は過去に悲しい思い出だけではなく、楽しい思い出もたくさん残してくれた。そう考えると、将来の犬の死を今から心配するのは、フェアじゃない」


ポールは安堵の表情で、このようにあかりに伝えた。


ポールの後姿を見送ってドアを開けると、もう一人の同僚トゥイ・ダンが待合室でフランセスと話していた。どうやらフランセスの知り合いの入っているシニアホームで、アニマルセラピーを始めたらしい。


「ペットは人生を豊かにするよね」こう話しかけるあかりに、トゥイが答える。


「ほんとよね。ランチョ・サンタフェにある高級シニアホームも来月からアニマルセラピーを定期的に行うことにしたらしいわ。動物と暮らすと、特に老人は血圧や気持ちが安定するし、何より元気で天寿を全うする人が多いという統計もあるものね」


「まだ老人ではないけど、うちの猫たちもずいぶん私の血圧安定と、精神衛生の向上に貢献してくれているわ」


こう答えながら、あかりはポールがどのように犬と暮らしていくだろうかと、少しうれしい気持ちが心の中に満ちるのを感じていた。




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