犬が怖い本当の理由①


アメリカでは全体の約7割の家庭でペットを飼っているというから驚きである。特に子供のいる家庭ではペットを飼うことを通して生き物に愛情を注ぎ、飼育することを学べるというので、犬や猫を複数飼いしている家も多い。そしてペットオーナーたちの9割以上が、ペットを家族と思っているそうだ。


あかりとブライアンもご多分に漏れず、猫を二匹飼っている。この猫たちはあかりが独身の頃からの付き合いで、寂しい外国の一人暮らしを大いに慰めてくれたものだ。動物の心理も人間同様とても興味深い。あかりがブライアンと結婚して一緒に住むようになると、猫たちは明らかに、ブライアンより自分たちの方が序列は上だ、という態度を取るから笑ってしまう。


「こいつら俺のことシンザンモノや思て、バカにしとるんや」不服そうなブライアンに、


「新参者んて言葉良く知っているわね。ま、仕方ないわね。あの子たちの方が、ずっと付き合いは長いからね」と、あかりは大笑いしながら答える。


シンガポール出身のポール・ラムの悩みは犬に対する恐怖心だ。道で犬とすれ違うだけでも緊張のバロメーターはマックスに達する。大型犬は特に苦手で、パーティーなどで友人宅に招かれても、そこに大型犬がいたら早々に引き上げることにしている。


道で犬とすれ違うだけでも緊張のバロメーターはマックスに達する。大型犬は特に苦手で、パーティーなどで友人宅に招かれても、そこに大型犬がいたら早々に引き上げることにしている。


ところが最近5歳になる息子が、しきりと犬を飼いたいと言うようになった。そして妻もまた本当は大の犬好きだと言う。


「あなたが怖がるから言わなかったけど、前から一軒家に住んで家族と大きな犬を飼うのが夢だったのよ」


これまで犬のことなど一度も言ったことがないのに、本当は犬を飼いたかったんだ。


だが、妻はともかく、息子があんなに欲しがっているのだから飼ってやりたいと思う。いや、息子の情操教育のためにも是非飼わなければいけないと考えるようになった。しかしまずは自分の犬に対する恐怖症を何とかしなければいけない。


落ち着かなそうにソファーに浅く腰掛けているポールは、途方に暮れたような表情であかりに問いかける。


「何か方法はあるでしょうか」


心理学者のジョンワトソンが行ったリトル・アルバート研究以来、人が動物を怖がるようになるのは、幼少期の経験が基にあると考えられるようになった。


アルバートという生後11か月の幼児は、大きな犬やウサギ、ネズミなどの動物を全く怖がらなかった。そこでワトソンは恐怖心がどのように植え付けられるか、アルバートを使って条件反射の実験を試みる。


まず研究用の白ネズミと遊ばせてみると、アルバートは少しも怖がることなく白ネズミにさわって遊んでいる。しかし今度は白ネズミが目の前に来るたびに、ドラを叩いて大きな音を聞かせる。するとアルバートは音にビックリして激しく泣き出す。


そして次の段階ではアルバートは白ネズミが出てきただけで激しく泣き出すようになり、次第にネズミ以外のすべての動物や毛皮のストールさえも怖がるようになった。


この研究を思い出すたびに子供好きのあかりは「まったく!」と、行動主義心理学の祖に憤怒を覚える。アルバート研究は心理学では一番知られている研究の一つで、人間が恐怖心を抱くようになるプロセスを解明したことは確かに価値がある。だが、恐怖心を消すプロセスを省き、動物恐怖症のアルバートを放置したことは許されるべきことではない。現在では完全な倫理規定違反だ。


「一般的に人間が生まれつき動物を怖がることはないと考えられています。子供の頃に犬に限らず動物との経験で、何か怖い思いをしたことはありませんか」


このようにたずねるあかりに、ポールはそのような記憶は全く無いと首を振る。


「動物との思い出であなたが忘れているようなことがあるかもしれません。次の面談までに、ご家族に聞いてみてください」


次の面談でポールは母から聞いたという興味深い話を聞かせてくれた。

ポールの家族は皆動物好きで、子供時代は常に犬を飼っていたのだそうだ。そして母がアルバムに保管していたポールが犬と一緒に写っている写真を何枚も見せてくれた。そこには犬を抱いて笑っている様子や、ベッドで一緒に寝ているところ、また犬の頭を撫でている楽しそうな様子が写っている。


このような環境で育ったポールが犬に対する恐怖心を持つようになったのは、いったいなぜか。ポールと一緒に写真を見ながら、犬に対してこの当時どのように感じていたかあかりが聞くと、初めは思い出があまり蘇ってこないようだった。


「それにしてもこれも不思議である」と、あかりは思う。ポールはまだ30代半ばで、そんなに遠い昔でもない犬との交流が思い出せないとは。


あかりはしばらく黙って、ポールの記憶が蘇ってくるのを待った。




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