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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

  • 執筆者の写真王丸典子

厄介な老父と付き合う法

更新日:2023年6月29日



最近は人々の寿命が延びて、80代を過ぎても元気なお年寄りを見かけるのは珍しいことではなくなりました。

昭和の頃は70代の祖父母が亡くなる時に、その旅立ちを見送る子供は40代というのが一般出来でした。

しかし令和の今、医療の発達や食生活の改善、また健康志向などから、日本人の寿命は年々伸びています。

すると親子ともにシニアなどと言うことも珍しくなく、そこから様々な人間ドラマが生まれます。

しのぶさんと父親の場合


40代のしのぶさんは自信が持てないのが悩みです。

色々な理由が考えられますが、一つにはとても厳しくて口うるさい父親の影響がありました。

子供のころからしのぶさんのすることなすことけなして、40歳を過ぎて独立した現在でも、顔を合わせると批判の連続です。

以前から人間関係があまりうまくいかなかった父親は現在80歳。

リタイア後活動範囲がますます狭くなり、日がな一日テレビを見て過ごします。

そのような毎日で、攻撃の矛先は一人娘のしのぶさんに集中します。

しのぶさんは

「父を変えたいのですが、何とかなりませんか」

と、心理カウンセリングに来て深いため息をつきます。



このような場合説得するような方法では、相手を変えることはほとんど不可能です。

これが人間関係における不変の決まり事なのです。

なぜなら人は何かをしろといわれると、反対のことをしたがる習性があるからです。

私自身もこれを納得するのはずいぶん時間がかかりました。

特に若いころは何とか相手を変えようと七転八倒したものです。

もちろん例外はあります。

相手があなたの言うことに耳を傾け、自分を変えていこうと前向きになれば変化は出て来るでしょう。

しかし自分が正しいと思い込んでいる人に対して説教してもまず聞いてもらえません。

このような場合は自分のアプローチを少し変えると、高い確率で相手に変化が現れます。

そして時には劇的に変わる場合もあるのです。



高齢者に良くあるのは、すでに大きな役割を終えホッとすると同時に自己肯定感が低下する現象です。

特にしのぶさんの父親のように我が強く、社会とのつながりが希薄な場合は、自己肯定感、生きがいや、やりがいを感じることはかなり減っていると思われます。

若い時とは違い肉体的な衰えも、少なからず感じていることでしょう。

この父親の心理状態を理解した上で、父の自己価値感が上がることをうながして、しのぶさんへの攻撃を減らすことをめざしてみました。

まず回想法のテクを使って、父親に昔話をしてもらうよう仕向けました。

回想法とは、これまでの経験や家族の歴史などを話したり書くことにより、精神衛生向上をめざす心理カウンセリングの療法です

このアクティビティーを通して、シニアは自分が成し遂げたことや果たした責任などを再認識します。

すると自身の存在価値や自己肯定感が向上します。

私自身もこの療法をシニアのカウンセリングに用いて、クライアントに信じがたい変化が起きたことが何度かありました。

ある老婦人はうつが原因の攻撃性が緩和し、また別の女性は記憶障害や奇行が大幅に減少しました。

回想法を行う際の禁句は、

「お父さん、それもう何度も聞いたわよ」

です。

老人は概して話を繰り返すものです。

たとえ何度も聞いている話でも、あたかも初めて聞いたように、

「へぇ~、そうだったの」や

「それからどうなったの」

など興味をもって話を聞きます。

しのぶさんも出来る限りの演技力を発揮して行ってみました。


しのぶさんが回想法を行うようになって少し経ちました。

当初「父は楽しそうに昔話をして、そうすると機嫌が良くなるので助かります」という感想でした。

ところがその後、またちょっと問題が生じました。

父親は昔話をしながら

「俺がお前の齢にはこんな功績を上げていたのに、お前は情けない」

と言うのです。

女性は「これにはなんと答えて良いか分からず私は黙ってしまい、そこで昔話は中断です」と、途方に暮れています。

これは父親が娘をけなすことを通して、無意識に自己肯定感を上げようともがいている姿です。

よく考えると卑怯な行為とも言えますが、そこはしのぶさんが少し大人になって、父親の自己肯定感が高まるようなことを言ってもらうことにしました。

例えば「お父さんはすごいわね。私はまだまだ修行がたりないなぁ」とか

「お父さんのように私も頑張らないとね」などです。

このような相手を肯定する言葉がけは、父親の「自己肯定感が低い」という心理を理解すると、出来るようになる人が多いです。

これは心理療法の一つ、他者肯定法からヒントを得ています。

他者肯定法は、相手の言うことを受け止めて、会話をつなぐ方法です。

回想法と他者肯定法のテクニックを心掛けて一年以上たち、父親のしのぶさんに対する批判や攻撃は随分減少しました。

そしてこれが出来るようになったことで、しのぶさん自身の自己肯定感もまた向上しました。


厄介な老人との会話に昔話と肯定で対処すると意外にうまくいく





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