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​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

執筆者の写真王丸典子

人生の主役になる


行彦さんは父親にはどうやら愛人がいるらしいこと、それによって母は嘆き悲しんでいることを小学校に入るころから知っていました。そしてそれ以来、家庭内で母を守る役割を演じるようになりました。


そんな中、母の興味の矛先は行彦さんの一挙手一投足と、将来の成功に向けられます。そして過干渉の母は息子が進む学校や習い事、友達選びまで息子の意見を尊重することなく、勝手に決めるようになりました。


行彦さんは多少の息苦しさを感じながらも「これは母の愛である」と、自分を納得させることで、家庭内の平安を保つことを選択し続けました。息苦しさはなるべく無視して、自分の気持ちを殺し続けました。


反抗期に起こる重要な事柄の一つが、精神的な意味での「親の子離れ」と「子の親離れ」があります。しかしこのような母と息子の関係ですから、行彦さんに「反抗期」はありませんでした。


そして大学に行くために家を離れた後も、精神的な親離れや子離れはできないまま、大人になりました。母を守るという役割はすっかり成長して家を出た後も続き、行彦さんは「母の意に反すること」は、決してしないという姿勢を貫きます。


やがて三十代になり、行彦さんの友人たちはほとんど結婚して家庭を持ちました。自分にも心を奪われる人が現れましたが、とても母に打ち明ける気になりません。必ず文句を言って、母が交際を止めさせられるのが分かっていたからです。


この様な気持ちを抱え悶々としているうちに、何人かの女性との交際は立ち消えました。皆行彦さんの煮え切らない態度に愛想をつかして去っていったのです。


聞いてみると、就職する際の会社選びや、車やマンションの購入、休暇の過ごし方など、これまですべて母に意見を尊重していたのだそうです。


また、こうしたいな、これが好きだなというようなことがあっても、母が嫌うだろうと推察されることは、全くしないようにしていたという背景がありました。カウンセリングでは以下の三項目を軸に話を進めました。


① パートナーと人生を共に歩みたいとう気持ちの確認

本当に行彦さんは、パートナーを見つけ、共に人生を歩みたいと思っているのかどうか、次のような事柄を繰り返し自問し確認してもらいました。


  • 女性に対してネガティブな母の反応に向き合う心の準備があるか

  • 母が親子の縁を切ると脅してくるとしたらどうするか

  • 母との関係が絶たれてもパートナーとの人生を選択するか

  • パートナーも母に対して拒絶反応を示したらどうするか

  • 母よりパートナーを優先することができるか、あるいはしたいか


② 母は行彦さんの頭の中に住んでいると認識してもらう

母の教えや物の考え方は、行彦さんの中に固定観念として深く根付いています。何かを選択するときや物事を決めるときに、固定観念に基づくというのは誰でもすることです。 


しかし常に母がどう思うかに基づくというのは、健康的ではありません。それはまるで母が頭の中に住んでいて、指令を出しているような状態です。そこで母の考えや思いを考慮する状況になったら必ず「僕自身は何を望んでいるのだろう」と、一呼吸おいて考える癖をつけてもらいました。


③ 母の意に反することで感じる恐怖心を和らげる

「母の意に反する」と、行彦さんは強い恐怖心を覚えていました。これまでその認識がなかったのですが、気づいてもらうよう促しました。そして恐怖心が出るたびに、深く深呼吸をします。 


また、頭の中に住む母が行彦さんの体から抜けて、上の方に上っていくイメージをゆっくりした呼吸とともに繰り返してもらいました。


①から③の項目を心がけることを始めてから数カ月後、友人の紹介である女性と知り合い真剣な交際に発展しました。以前はできなかった「母に打ち明ける」こともクリアして、初めは母も柔軟な態度で受け止めているように見えました。


ところが実際に女性を紹介したころから、母の猛反撃が始まりました。そしてついには「親子の縁を切る」というところまで事態は悪化。しかし一年半に渡り三つの項目を繰り返して心の準備をしたことから、行彦さんの姿勢は変わりませんでした。


一番のネックは「母に見捨てられたら」という恐怖心です。しかし最終的に恐怖心が出るたびに「たとえ母が自分を見捨てても、自分は母を見捨てない。自分自身の人生を生きることは、母を見捨てることにはならない」という意識を自分に植え付けることで、行彦さんはついに意思を全うしました。


★意思を明確にして生きることは自分の人生の主役になること






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