​小さなミラクル通信

守秘義務尊重のため内容は著者の経験に基づいた創作です

ご飯を食べなくなった少女

その少女が初めて心理カウンセリングに来たのは、ある晩春のことでした。プレイセラピー用の小さなテーブルをはさんで座っている様子は、頼りなげで悲しそうな表情をして、ぼんやりと私を見つめています。

お母さんによると小学校を卒業するころからなんとなく元気が無くなり、理由を聞いても話そうとしないのだそうです。以前は勉強もスポーツも良く出来る快活な子供でしたが、性格が変わってしまったと思うほど、しばしば家でもぼんやりしています。そして時折些細なことで不機嫌になるのも以前にはなかったことでした。

4月から中学校に行くようになり、お母さんは中学生になればまた元気が出るかと思っていたそうですが、それどころか最近ではご飯もあまり食べなくなってしまいました。お母さんは少女が拒食症を患っているのではと心配しています。


大人のカウンセリング面談では状況や気持ちを言葉で伝えてもらいますが、子供はそれが難しい場合も多いので、プレイセラピーという療法を用います。プレイセラピーはゲームや絵画、アート・ワークを一緒にすることを通して子供の気持ちを理解し、元気になる手助けをすることが目的です。

この少女は元気はないものの、プレイセラピーは気に入ったようで、絵をかきながら次第に自分の気持ちを話すようになりました。ある時少女が海岸に立っている自分の姿を絵に描いたので、この海岸であなたはどんな気持ちだったのと聞くと「悔しくて悲しかった」と言います。

悲しみの原因はクラスメートのいじめでした。小学校の卒業間近なころ、ある意地悪な生徒が急に少女を目の敵にするようになりました。健康的で食べることが大好きだった少女に、その意地悪な子は毎日「デブデブ」と囃し立てます。

あっという間に卒業の日がやってきたので、いじめは2-3週間の事でしたが、少女の心はそれによってズタズタに切り裂かれました。いじめっ子は別の中学校に行ったため、中学ではいじめられなかったものの、その子の言葉が胸に刺さっていて、ご飯が食べられなくなったのでした。

カウンセリング面談ではプレイセラピーのほかに、少女の長所リスト一緒に作成しました。リストには「人に親切、約束を守る、勉強やスポーツが得意」といった少女の長所を漏らさず記載することに時間をかけました。

この作業を通して少女の自信はかなり回復していきました。もちろんその間少女を褒めたり励ましたりすることは、カウンセリングの欠かせないエッセンスでした。

長所リスト完成後、次に行ったのはいじめっ子に言いたいことを手紙に書く作業でした。少女にこの手紙は相手には出さないので、どんなに悪い言葉を使っても良いから思い残すことのないよう全部書きなさいと伝えました。

そして夏休みになりました。少女はほとんど前のような快活さを取り戻し、カウンセリングはここで一旦終了となりました。

そして数か月後、お母さんから少女が私に会いたがっていると連絡がありました。その後どうしていただろうと少しドキドキして待っていると、予約当日とても元気そうな笑顔の少女がやってきました。

少女は「先生がきっと私がどうしているか気にしてるだろうと思って、今日は顔を見せにきたの」と言うではありませんか。これがカウンセラー冥利に尽きる瞬間というのでしょうね。

私はうれし涙を隠したくて「来てくれて、ありがとう!」と言って大声で笑いました。

最後にいじめっ子宛の手紙をもう一度声に出して読み、少女が「もうすっかり気が済んだ」と言ったので、手紙を一緒に細かくちぎりました。

少女は細かい紙切れになった手紙を見ながら、にっこりしました。

これでカウンセリングは、本当に終了となりました。

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プロフィール

米国・カリフォルニア・スクール・オブ・プロフェッショナル・サイコロジーで、心理学修士号及び心理学博士号取得。カリフォルニア州公認サイコロジスト。アメリカ心理学会正会員。アメリカ軍契約サイコロジスト。

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