• 渡部典子

「ここが良ければ、もっと良いのに」で心がしぼむ




カウンセリングに訪れる人の多くが、「親に褒められたことは一度もありません」。あるいは、「いつも悪いところだけを指摘されました」と訴えます。そして自分に自信がないのは、親から悪いところや、足りないところを指摘され続けたからだと思い、やり場のない鬱憤を噛みしめているのです。

 

日本ほど「改善」が、文化の中に根付いている国は他にないでしょう。「改善」を尊重する姿勢は、「トヨタ生産方式」の海外への紹介や、アメリカでの「日本製造業の強さ研究」などを通して、いまや外国でも知られるようになりました。私がかつて通ったカリフォルニア州立大学の社会学の試験に、「Kaizenの意味を説明せよ」という問題が出たのは、もう二十五年以上前のことです。


このような社会的背景がある中、「改善」の精神は職場だけでなく、家庭内でもしつけの重要な一部になりました。特に学校の勉強や習い事、外見などに対して「あと3点取れたら、クラスのトップだったのに」、「もう少し足が速ければねぇ、レギュラー取れるのに」、「あとはそう悪くないのに、鼻の形が残念だわ」など。そういえばよくそんなこと言われたな、と思う人も多いのではないでしょうか。


ビジネスの世界では非常に効果のある「改善」の姿勢も、家庭内のしつけにおいてはあまり効果的ではありません。なぜなら対象が「物」ではなく「人」だからです。「ここが良ければ、もっと良くなるのに」という言葉によって、子供の中に「自分は不完全」という意識が芽生えます。


親は家や食物を提供してくれ、自分を守ってくれる絶対的存在です。その親が自分を「不完全」と思っている。これは子供にとっては死活問題なのです。無意識に「親に嫌われるのではないか」、「捨てられるのではないか」という思いが出て、そこから不安が生まれます。

しかし子供はこのような精神的メカニズムを、認識しているわけではありません。出所の良く分からない「何となく不安」「何となく不機嫌」「何となくつらい」気持ちを、抱えて暮らすようになるのです。

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